草々、小浜に現る


草々の小草若に対する思いは熱すぎる。

喜代美の草々への恋心なんて目じゃないほどに。

草々は小草若を信じている。

稽古に励めば必ず、彼の父の名に恥じぬ立派な噺家になれると。

草々は自分も信じている。

『次の御用日』を喜代美が(草々への思いのために)最後まで聞けなかった日から懸命に稽古を続け、この日は喜代美を素直に笑わせる口演をした。



努力をすれば道は開けるという正論の固まりのような男なんだな、草々は。

その努力のためのモチベーション、というか動機は彼にとって何なのだろう。

彼はなぜ落語をするのか、うまくなりたいのか?

誰かを笑わすために、というよりも、自分が落語の世界に入り込んで生きると幸せだからなのだろうか。

生まれたときから落語の世界に住んでいる小草若には気づくことが難しい類の幸せである。