父母の馴れ初め


その夜、喜代美が糸子に、自分が悪くないのになぜあのような態度をとったのか尋ねた。

糸子は正典との馴れ初めを語った。

鯖江で母と小間物屋を営んでいた糸子は、塗箸を見て廻っていた正典と出会う。

糸子の母が倒れ、暮らしが苦境に陥ったとき、正典は塗箸の修業を止めて小浜を離れ、糸子の所へ来た。

糸子はそのことに責任を強く感じていた。


こうして、正典さんが父の跡を継いで立派な塗箸職人になることへの、糸子さんの並々ならぬ熱意の由来が明らかになりますが、どうも、喜代美には納得がいかないようで。


まあ、無理もないと思います。

喜代美はまだ自分が誰かにもてはやされたい、注目されたいけど何もせず、できずに空回りしているだけだから。

誰かを強く思い、その相手の人生を変えてしまった人の、胸の奥に抱え込んだ罪悪感なんて、想像できないでしょうね。

ただ、ここで私が気づくのは、その罪悪感が喜代美の父母の結びつきを強くしていることです。

父かつ塗箸の師匠である喜代美の祖父を見捨てた、正典の罪悪感と合わさって、二人の決意が浮き彫りになっているようです。