第5週 兄弟もと暗し 第30回

喜代美、大阪へ戻る。

和田家一同で喜代美に「帰れ!帰れ!」という場面で、泣けてしまうとは私は思わなかったですわ。

子供の気持ちも親の気持ちも、どちらも身にしみてくる。

その向こうで微笑んでいるおばあちゃんの気持ちも、ずしんとくる。

茂山宗彦さんが好きだと言っていた、お父ちゃんが縁側で円周率を唱えてみせるところも効いている。

お父ちゃんが兄ちゃんでも息子でもあるように、人はいろんな立場に立って生きているのです。


ところで、小草若ちゃんは、失意のまま大阪に帰ったんですかね…。

草々、小浜に現る


草々の小草若に対する思いは熱すぎる。

喜代美の草々への恋心なんて目じゃないほどに。

草々は小草若を信じている。

稽古に励めば必ず、彼の父の名に恥じぬ立派な噺家になれると。

草々は自分も信じている。

『次の御用日』を喜代美が(草々への思いのために)最後まで聞けなかった日から懸命に稽古を続け、この日は喜代美を素直に笑わせる口演をした。



努力をすれば道は開けるという正論の固まりのような男なんだな、草々は。

その努力のためのモチベーション、というか動機は彼にとって何なのだろう。

彼はなぜ落語をするのか、うまくなりたいのか?

誰かを笑わすために、というよりも、自分が落語の世界に入り込んで生きると幸せだからなのだろうか。

生まれたときから落語の世界に住んでいる小草若には気づくことが難しい類の幸せである。

小草若、小浜に現る


ここで筆が止まったのは、私がこの場面を好きすぎるからではないかな。

こなれたリポーター振り。
髪は少し茶色い、衣装のトップスは『まいご』と同じ。
売れっ子に相応しい器用さをテレビカメラの前では見せるのに、喜代美と、そして友春の前では壊れてしまう。


小草若が友春とつかみ合いの喧嘩になるきっかけの、友春の台詞。
「おまえに才能ないだけと違うか」

草若師匠も草々も決して口に出さない、小草若にとっての地雷。


そして、底抜け「寿限無」の虚勢に、彼の底知れぬ苦しみを感じるのです。

ここから先の彼を知ってしまっているから。


喜代美と小草若の違いについて考えています。
二人とも落語においては不器用だけど、喜代美はその他全般に不器用で、そのコンプレックスを前向きに努力して克服するようになる。
対する小草若は、一番認められたい落語だけが不器用で、その他は器用にこなせてしまうジレンマがあったかもしれないな。

五木ひろし、登場


海岸で喜代美が順子に話をしているとき、偶然、五木ひろしが通りかかった。

喜代美は糸子を呼びに帰るが、家では正典と小次郎が言い争っていて気まずい雰囲気。

糸子が出てこないならせめてサインをしてもらおうと喜代美は先ほどの海岸に引き返すが、五木ひろしは立ち去った後だった。


大スターのゲスト出演がこの一度きりでなく、まだまだあるのが凄いし、ネタとして使い倒している。

糸子は五木ひろしに会えるのか?で、引っ張っていっちゃうからね。

何だか大スターが、さっき○○ちゃん来てたのに〜、という感じでよく言われる近所の知り合いみたいだ。

第5週 兄弟もと暗し 第28回

五木ひろし、登場。小草若、小浜に現る。


来たよ来たよ。

大スターと売れっ子落語家があの時、小浜でニアミスしてたとは…、忘れてたわ。


この回の小浜ロケが茂山宗彦さんの撮影初日だったと知ると感慨深いものがあります。

作品上の初登場はもちろんインパクトありましたが、撮影初日こそ全ての原点かもしれない。

たしか、このロケ前日に、茂山さんは小草若ちゃんの街頭レポートの原稿と底抜けポーズを準備していたのですか。

第五週の演出は勝田夏子ディレクターで、彼女の側からも公式ホームページのスタッフ日誌で「底抜けは茂山さん考案」と書いていたので、凄いものだなと思いました。

何がというと、脚本を挟んで演出家と役者が本番前から鋭いラリーの応酬をしていた様子が垣間見えるからです。

勝田さんは茂山さんができると信じるから丸投げしたのだし、茂山さんは自分が小草若をつくる上で必要なものを的確に出してきたのです。

脚本に「奇妙なポーズ」「レポートをする」とだけ書かれていたら、演出家の裁量で細部を作り、役者はその指示に従うのみ、という場合もあるでしょう。

それが撮影初日のシーンなのに、こんなに役者からの案が入っているのは、キャラクターの設定が物語の中できっちりできていて、現場で揺らぐことがなかったからでしょうか。

茂山さんは主要キャストの中で決定が遅かったので、準備期間が短かったと思いますが、撮影に入るまでに完璧に役作りができていてスタッフとも良い関係だったのかと想像してしまいます。


そういえば、小草若役はオーディションではなかったんですね。

キャスティング担当の方には頭が下がります。

小草若と草々


小草若は「寝床」で喜代美が小浜へ帰っていることを知る。

何か閃いたかのように小草若が口笛を吹くと、聞きつけた草々が「夜に口笛を吹くと泥棒が入る」と小草若につかみかかった。


また、じゃれあっとると、熊五郎夫妻の他は皆、平然としていて止めもしないのが、二人の付き合いの過程を表していて、いい感じです。

小草若ちゃんが草々に「日雇いのバイト行ってるらしいな」と言っていたけれど、色々悪態をつきながらも心配してるんだなあ。

この頃は、人が言われたくないことをずけずけ口にするいやな奴、といったキャラの小草若ちゃんだけど、全編通してから今見直していると、口汚く草々や師匠を罵っていても、おせっかいな、人の好すぎる奴に見えて困るんです。